レーザ (LASER) は、発明者によって作られた「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」のイニシャルからの造語です。日本語訳では「誘導放出による光の増幅」といった意味になります。一般的には、レーザ光を放出するためのレーザ発振器・増幅器の総称として使われます。 レーザ光は、誘導放出により放出される自然の中には存在しない人工的に作られた光であり、色純度が高い (単一の波長)、位相が揃っているなどの特長があります。
世界で初めて半導体レーザが発振したのは今から40年以上も前のこと、当時の発振波長は840ナノメートルの赤外線でした。また、ソニーでは1984年に"MOCVD"結晶成長法による半導体レーザを世界で初めて商品化し、開発量産化の成果により大河内記念生産賞 (1990年) を受賞しています。
レーザには、レーザ光を放出する媒体によっていろいろな種類があります。大きくは気体レーザ、固体レーザ、半導体レーザ、液体レーザに分けることができます。それぞれのレーザは、波長、出力や大きさなどに特長があり、医療、工業や民生の各分野で活躍しています。中でも半導体レーザは、小型で消費電力も少ないため、私たちの身近でもBlu-ray DiscやDVDに代表される光ディスクへの信号書き込み/読み出し、プロジェクタ用光源、プリンタなどに応用されています。
化合物半導体のP-N接合に電流を流すことで、レーザ光を放射する半導体デバイスです。半導体レーザはダイオードの一種で、ダイオードとしての電気的性質とレーザ光を発する性質を備えており、レーザダイオードとも呼ばれます。 半導体レーザはガスレーザなどに比べて小型・軽量であり、Blu-ray DiscやDVDなどの光ディスクの記録・再生用途や、光ファイバ通信の光源などに広く利用されることがよく知られています。 最近では光の3原色がすべて半導体レーザで実現できたことからProjector用途の実現が可能になってきました。また、赤外光が人間の目の感度がないことを利用して、3Dセンサー用途も広がりを見せています。
半導体レーザ
エジソンの「白熱電球」は、電気を熱エネルギーに変換することで光を発生させました。半導体レーザや発光ダイオードは、電気から直接光を発生させます。
白熱電球
電気エネルギー → 熱エネルギー → 光
半導体レーザ (発光ダイオード)
電気エネルギー → 光
半導体レーザに使用される材料は、たくさんの原子の集合体であり、原子殻の周りを多数の電子が回っています。高いエネルギーを持った電子が低いエネルギー状態に戻るときに、光としてエネルギーを放出します。また、この光に刺激された別の電子が低いエネルギー状態に戻り、光を発生させます (誘導放出) 。
発生した光は、さらなる誘導放出を引き起こすために、へき開面のミラーで発光層内を折り返し反復し、効率よく光の増幅を行います。
この誘導放出の繰り返し(増幅)により、位相の揃った強い光 (レーザ光) が放出されます。
誘導放出された電子は、P-N接合に電流を流すことによって連続的に補充され、レーザ光が連続放出されます。
半導体レーザの応用分野は、レーザ光の波長と出力特性によって決まります。
その波長 (色) は、レーザ活性層の材料 (エネルギーギャップ) で変えることができます。
半導体レーザが発振したのは今から40年以上も前のことですが、当時の発振波長は840nmの赤外線でした。
発振波長400〜800nmの短波長レーザは、光の集光性に優れているため、光ディスクの信号書き込み/読み出しに利用されています。
光の3原色波長のレーザ (450nm帯、530nm帯、635nm帯) はProjector用途に利用されています。
発振波長800nmを超える近赤外波長は、3Dセンサー、短距離光通信に利用されています。
1300nm〜1600nmの長波長レーザは、光ファイバ内での伝送損失が小さいため、光ファイバ通信の光源として長距離通信網に使われています。
レーザの材料 | 波長 | 色 | 応用例 |
---|---|---|---|
GaInN | 400〜530nm | 青紫〜緑 | Blu-Ray Disc/Projector |
AlGaInP | 635〜680nm | 赤色 | DVD/Projector |
AlGaAs | 780〜850nm | 赤外 | CD/プリンタ/光通信/3Dセンサー |
InGaAs | 900〜980nm | 赤外 | 3Dセンサー |
InGaAsP | 1300/1550nm | 赤外 | 光通信 |
英国の学者が「光とは目に見える電波である」と言ったように、光は電波と同じ電磁波のひとつと考えることができます。光は波ですから波長 (周波数) や波の高さがあります。波長の長いほうからラジオ波→マイクロ波→赤外線→可視光 (赤橙黄緑青紫) →紫外線→エックス線となり、目に見えるかどうかは波長によって決まります。
半導体レーザはいろいろな分野に応用されています。
今後もレーザ技術の発展と共に新たな応用が生み出されることが期待されています。
半導体は、電気をよく通す良導体と電気を通さない不導体 (絶縁物) の中間に位置し、いろいろな条件により電気伝導度をコントロールできる性質を持つ物質です。
一般的には、トランジスタ、ダイオードやLSIなど、半導体の性質を利用した電子部品を総称して使われています。
トランジスタやLSIなど、今日の半導体のほとんどにはシリコン (Si) 結晶が使われています。半導体レーザなどに使用されるガリウム (Ga) と砒素 (As) からなるガリウム砒素結晶のように、2元素以上から構成される半導体を、シリコンなどの単元素半導体と区別して化合物半導体と呼んでいます。
ガリウム砒素 (GaAs) 結晶は、III-V族化合物半導体の代表的な材料で、結晶内の電子の動き (移動度) がシリコンに比べて速いため、半導体レーザの他に超高周波デバイスなどにも使用されています。
半導体レーザの製造プロセスでは、GaAsなど単結晶基板に多層の結晶を形成する工程があります。
MOCVDはMBE、LPEと共に結晶成長法のひとつで、気体から結晶成長を行わせます。材料に有機金属を用い、分子の熱分解を利用した化学反応で結晶成長を行います。
MOCVDは良質の結晶膜成長が可能で、結晶成長膜の均一性がよく、同時に多数の処理ができるなどの特長があります。
1984年にソニーが"MOCVD"法による半導体レーザを世界で初めて商品化して以来、この技術は半導体レーザ結晶成長法の主流となっています。
光学ピックアップは、CDやDVD、Blu-ray Discなどの光ディスクシステムにおいて、ディスク上のピット (ミゾ) から信号の読み出しや、ディスク上への信号の書き込みを行う光学系+半導体レーザからなる光学ヘッドのことです。
光学ピックアップの役割は
光学ピックアップ | 使用波長 |
---|---|
CD/MD | 780nm |
DVD | 650nm |
Blu-ray Disc | 405nm |
赤外レーザや通信用の長波長レーザに対して、レーザ光の波長で約400nm-約700nmの波長帯を持つ赤色レーザや青色レーザのような、目に見える光を発光するレーザを可視光レーザといいます。
赤色レーザはAlGaInP系の材料を使用し、波長630nm-680nm帯の赤色を発光します。赤色レーザは、DVD用光学ピックアップに用いられている他、スーパーマーケット/コンビニエンスストアのバーコードリーダ、レーザプリンタ、ポインタなどにも応用されています。
青色レーザはGaN系の材料を使用し、波長400nm-500nm帯の青色 (青紫色) を発光します。波長405nmの青紫色レーザは、Blu-ray Disc用レーザとして用いられています。
Blu-ray Discの原理は、CDやDVDと大きくは変わりませんが、大容量化を実現するため、ディスク上のより小さなピット (ミゾ) を記録・再生するのに、DVDより短波長の405nm青紫色レーザが必要となっています。
CD/DVDドライブの光学ピックアップには、CDとDVDを記録・再生するためのそれぞれの波長のレーザが必要ですが、1パッケージで2波長のレーザ光を発光できるものを2波長レーザと呼びます。
2波長レーザにより、2波長の光学ピックアップの部品点数の削減が可能となり、また信頼性向上にも大きく貢献し、シンプルで量産性に優れた2波長光学ピックアップを実現することが可能となりました。
2波長レーザにはモノリシック型とハイブリッド型がありますが、モノリシック型2波長レーザダイオードの開発・量産化は、ソニーが世界で初めて実現したもので、プレイステーション2やDVDプレーヤに採用されています。2つのLDチップを1パッケージに納めたハイブリッド型に比べ、部品点数の削減や組み立てのしやすさに加え、発光点間隔の精度を±1µm以内に抑えることが可能となり、光学性能の向上も図れるなど、"モノリシック型"ならではの特長を持っています。