インタビュー

製品・技術インタビュー「車載用イメージセンサー」

500yard先の標識や物体を的確にとらえる「車載用イメージセンサー」が
自動運転、そして交通事故ゼロの未来を大きく引き寄せる

2021年8月24日

車の安全と未来を考える上で外すことのできないのが車載用イメージセンサー。イメージセンサーで世界トップシェアを誇るソニーセミコンダクタソリューションズグループ(以降、当グループ)が、後発となるこの分野で勝負するために開発したのが、ハイダイナミックレンジ(HDR)とLED フリッカー抑制(LFM)を高い次元で両立した車載用イメージセンサー。これまでにない技術特性を持つイメージセンサーの実現には、新規参入の業界ならではの苦労、そして車載ならではの温度、湿度、振動に対する過酷な状況への耐性と品質管理が求められており、設計・製造・品質管理あらゆる部門がそれぞれの課題を乗り越える必要がありました。当グループが掲げるSafety Cocoonコンセプト、そして自動運転のカギを握る「車載用イメージセンサー」の開発ストーリーを伺いました。

プロフィール

薊 純一郎
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
車載事業部
主な業務:車載用イメージセンサー商品企画
役割:ビジネスPM
坂野 頼人
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
第1研究部門
主な業務:車載用イメージセンサー画素設計
役割:画素設計責任者
西塚 勝
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
品質・環境部門
主な業務:車載用製品の品質保証、信頼性技術開発
役割:車載品質管理責任者
下薗 孝之
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社
車載製品部門
主な業務:車載用イメージセンサー デバイス開発
役割:車載用イメージセンサー開発統括

セキュリティ用イメージセンサーの応用としてスタートした車載用イメージセンサー
しかし、お客さまの要望はこれまでにないレベルの高さだった

車載用イメージセンサー事業に参入しようとした経緯を教えてください

薊:私はもともと、セキュリティ用や産業用イメージセンサーのデザインプロジェクトリーダー(D-PL)を担当していたのですが、2012年頃、車載ビジネスの検討が始まり、最初のプロダクトであるIMX224のD-PLになりました。ちょうどその頃、私は海外の企業とも仕事をしてみたいと思っていたので、チャンスだと感じて取り組み始めました。
最初はセキュリティ用と車載用は同一センサーとして企画がスタートしました。と言うのも、セキュリティ用センサーは一度設置すると長期間運用されるため、高い耐久性が求められます。また、暗いところでの撮像能力という点でも車載に求められる特性と近いと考えていたのです。しかし、いざ事業を立ち上げてみると、セキュリティ用と車載用イメージセンサーで求められるものが異なることが分かってきました。海外に出張してお客さまのフィードバックをいただき撃沈して帰ってくることの繰り返しでした。

車載用イメージセンサーが抱えていた課題にはどんなことがあったのでしょうか

薊:車載用イメージセンサーには、セキュリティ用や産業用とは違い、IATF 16949*1やAEC-Q100*2といった車載特有の標準があるのは分かっていました。私たちは、これをなんとか満たすように設計してお客さまに持って行ったのですが、あるお客さまから痛烈にダメ出しを受けてしまいました。
要因の一つはHDR。ハイダイナミックレンジといって暗いところから明るいところまでの撮像をイメージセンサー内部で完結する必要がありました。これまで、セキュリティ用イメージセンサーでもDOL(デジタルオーバーラップ)と呼ばれるHDR手法はあったのですが、センサーの外で異なる露光条件の画像を合成していました。合成をセンサー内部で完結させる手法はこれまでの当グループにはなかったため、これを新たに開発する必要があったのです。
そしてもう一つが、街中にたくさんあるLEDのフリッカー*3への対応です。ブレーキランプや信号機などのLEDを1フレームもミスなく撮影することを要求されました。とはいえ、LEDの点灯周波数には業界標準が無いため、すべてのLEDをしっかりと撮影するということはとても困難なことでした。「これは困った」と思い、設計の坂野さんを巻き込んで何度もブレストを行いました。

*1: 自動車産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格
*2: AEC(Automotive Electronics Council/車載電子部品評議会)が定めた車載用ICの品質を保証する認定基準・規格
*3: LED標識や信号機などの撮影時に起こるLEDのちらつき

坂野:私はHDRに興味があり、薊さんの誘いを非常に前向きにとらえました。その一方で、車載用イメージセンサーで求められる品質は非常に高く、特に初期故障率をかなり低く抑える必要があります。通常のイメージセンサーは生産を重ねる中で品質を高めていくものなので、車載用イメージセンサーは成熟したプロセスで生産するものだという不文律がありました。そのためにプロセス開発をミッションとする、私の所属する研究部門では車載用イメージセンサーは取り扱わないということになっており、当初は業務外にボランティアとして参加していました。

薊:設計の課題とは別に、製造の課題もありました。当時は車載業界に情報網がなく、知見もノウハウも全くない状態でしたので、IATF 16949やISO 26262*4といった標準を読み込むことからひと仕事で、西塚さんや下薗さんと勉強会を繰り返し行っていました。

*4: 自動車の電気/電子に関する機能安全についての国際規格

西塚:IATF 16949やISO 26262といった標準は明確なのですが、それを当グループの業務プロセスに落とし込むことが非常に難しかったですね。各規格を読み込み、理解すること自体もとても難しいことでしたが、それをプロジェクトメンバーに理解してもらうことが大きなハードルでした。これまでと全く異なるやり方をメンバー全員が理解し、実行することが求められていました。
しかし、こうしたことは、自動運転など未来に向けて、新しい企画を理解して進めなければならないので非常にやりがいがある部分でもあります。

下薗:IATF 16949やISO 26262で要求されることは、一般のものとは全然違うものだったので、製造の現場にどのように落とし込むのかを考える必要がありました。また、車載はお客さまの監査が多いのも特徴です。自分たちなりに解釈したのですが、「それは、そういうことではなく、もっとこうしてほしい」という要望が多々あり、その上、お客さま個別の要望も追加で出てくるので、それらに応えていくのはとても大変でした。

求められたのは、これまでの何百倍もの特性と
100万分の1も不良を許さない生産管理

車載には高い信頼性という部分に課題があったわけですが、どのように乗り越えていったのでしょうか

西塚:まず、何が厳しいのかということから説明しますと、車のダッシュボードの上は夏場100℃以上になることがあるので、高温に耐えられなければいけない。あとは、車は路面の上を走るので振動があります。振動する中で精密デバイスをミスなく動かすというのは非常に高い技術が求められます。
そして、先ほど坂野さんもおっしゃっていたゼロディフェクト、初期不良を抑えるという点です。数値的には1ppm以下を要求されました。これは100万個生産して、1個不良があるという数値です。こうした非常に高い特性と信頼性を両立させるためには、これまでにない厳しい製品評価環境を設定しなければなりませんでした。

坂野:HDRに関して言いますと、これまで70dB程度でよかったダイナミックレンジに関して、車載では120dBを要求されました。ダイナミックレンジを70dBから120dBに上げるためには、取り扱い信号量を120/70= 1.7倍というわけではなく、実際には320倍にしなければいけません。これは既存のイメージセンサーのアーキテクチャでは実現不可能な数字でして、全く新しいアーキテクチャの開発が必要でした。
これまでは、フォトダイオードに電荷を貯めていたのですが、取り扱い信号量を何百倍にもしなければならないので、電荷を貯めておくための別の入れ物をつくることにしました。そこで、これまでイメージセンサーで使われることがなかった、DRAMなどメモリーで使用する容量をイメージセンサーに採用。さらに新しい画素構造と画素制御方式によって同じタイミングに複数の露光で同時撮像できるようにすることで、大幅なダイナミックレンジの向上を実現することができました。

関連プレスリリース:
業界最多有効540万画素HDR撮影とLEDフリッカー抑制を同時実現 車載向けCMOSイメージセンサー商品化
LEDフリッカー抑制とHDR撮影を同時実現 車載カメラ向けCMOSイメージセンサー業界初の商品化

下薗:製造部門としては、新しいアーキテクチャに対して、新しい構造を実現しないといけません。車載特性を実現するために、工程ごとのバランスをとり、製造マージンをギリギリまで削って生産しており、ゼロディフェクトを目標に不良を徹底的になくすために、いかにゴミをつけない製造ラインを確保するか、ダスト管理にも高い水準が求められました。
また、車載用イメージセンサーは-40~125℃の環境で保証が必要であり、「高温における暗時特性の改善」、HDR動作を実現するために「フォトダイオード特性の改善」、「画素間のバランス」と開発における課題も山積みで、設計部隊と密な打ち合わせを行いプロセス条件の決定をしていきまいた。
パッケージでは、車載で求められる高低温での膨張係数差による実装信頼性、セット実装における250度での高温リフローによる実装が問題でしたが、車載専用パッケージを開発することで課題をクリアしました。

開発、製造セクションの密なコミュニケーションによって
お客さまが満足するHDRとLFMを実現

ソニーセミコンダクタソリューションズグループの車載用イメージセンサーの強みはどのような点にあるのでしょうか

薊:当グループのイメージセンサー全般に持っている強みでもあるのですが、暗時のノイズが少ないこと、白点といわれる点欠陥が少ないことですね。105℃という高温時でもきっちりと撮像できる技術で、他社と比べても優位な点だと思います。これは、CCD時代からの工場のノウハウの蓄積に加えて、社内に画素設計と製造の両者がいることで実現できていると思います。両者で日々話し合うことで、フィードバックが早く、改善が迅速に進みます。プロセスで解決できるのか、設計で解決できるのか、そうした細かな詰めが緊密にできるのは当グループの優位な点だと思います。
そしてもう一つは、HDRとLFMを高い次元で両立していること。さらには、ワールドワイドで行っている手厚いサポート体制ですね。お客さまの要望を的確に反映できる技術と環境が弊社にはあると思っています。

坂野:イメージセンサーってアナログの極みみたいなところがあるので、設計とプロセスが密にならないと改善が難しい部分があります。設計とプロセスが密にコミュニケーションが取れる環境があるのは当グループの強みだと思います。

西塚:品質監査をお客さまからたびだび受けますが、工場、設計開発の監査でも、いつも高い評価をいただいています。今はコロナ禍で難しい面もありますが、車載用製品は信頼関係あってこその製品なので、いつでも視察してくださいといっています。

車載用ということで、特に難しかった点を教えてください

坂野:特性という観点では温度耐性だと思います。-40℃から125℃はあくまでも動作保証であって特性保証ではないのですが、動作するという事は画が映るということですのでその画質についてもクレームを受ける可能性があります。明確なクライテリアがなく、お客さまごとに異なることが難しいところです。また、業務プロセスという意味でも難しいところがあります。ソニー基準の信頼性試験以外にも業界団体で決められた信頼性試験があります。そのためトータルの開発期間としては、他カテゴリーと比較して短いわけではありませんが、その中でプロセス開発に与えられる時間は決して長くありません。さらに、量産投入前に歩留まで含めた高い完成度・信頼性が求められることになります。結果としてプロセス開発に対するプレッシャーは大きいと思います。
ビジネスの点では、商品を作ってからコンペを勝ち抜いてようやくビジネスになるという商慣習なので、後発組であることもあり、お客さまと仕様合意してから開発を進めるという形になかなか持ち込めていません。技術企画をする立場としては結果に結び付くまでのプレッシャーは相当なものですね。

下薗:太陽光、積雪時など白飛びをしやすい環境でも飽和しない特性。高低温でも安定して駆動する特性、品質保証など要望特性は高いものでした。
また、信頼性要求、品質管理、顧客対応は他のカテゴリーと比較して厳しいので、これらをクリアしつつ特性を維持するのは一苦労でした。

西塚:自動運転というターゲットに向かっていますが、厳しい環境下でのゼロディフェクトや安心・安全を届けるという非常に高度な目標に立ち向かわなければならない点は難しいですね。また、数個の不具合で大きなトラブルになってしまうという点でも非常に神経をつかうところです。

車載用イメージセンサーが中心となり、
交通事故ゼロ、そして自動運転の実現へ

ソニーセミコンダクタソリューションズグループがめざす車載用イメージセンサーが切り開く未来とは

薊:当グループ製の車載用イメージセンサーが搭載されることで、われわれが掲げるSafety Cocoonコンセプトのように、車全体を繭で覆うかのような安全な車および交通環境を実現したいですね。

坂野:車載という意味ではイメージセンサーだけではなく車載LiDAR向けの測距センサーにも携わっていますので、それらのコラボレーションでSafety Cocoonコンセプトの実現に貢献したいと思います。また、HDRという切り口においてテクノロジーをリードすることによって、車載ビジネスだけでなく当グループの他のカテゴリーにもテクノロジーで貢献したいと思います。

関連プレスリリース:
Time of Flight方式の測距センサーを開発

西塚:自動運転車は当グループの車載用イメージセンサーを使わないと安心・安全が保たれないと言われたいですね。そして、世界中の車に当グループのイメージセンサーが使われて自動運転が実現していくといいですね。
そのモビリティ・車室空間内で、ソニーのゲームや音楽・映画など、エンタメが繰り広げられて、楽しんでいる未来。そうしたことが実現されると嬉しいですね。

下薗:モビリティを安心して使ってもらえるのはもちろんとして、交通事故、買物弱者など社会問題の解決につなげ、人々がより豊かに生活できるように貢献していきたいです。
また、EV化により自動車産業が大きく変化することになりますが、バッテリーと同じくらいイメージセンサーが重要になってくると言われています。日本の産業の中で拡大領域として成長を支えていけたら良いですね。

最後に、これから挑戦したいことを教えてください

薊:車の事故は命にかかわるものです。こっちの方が安いからという理由で選ばれてしまうと、後で何かあった時には悔やんでも悔やみきれません。そういうことが起きないように、当グループのイメージセンサーの良さをしっかり理解していただき、選んでいただけるようにしていきたいです。引いては、交通事故で悲しむ家族を一人でも減らしたいと思っています。それに向けてゼロディフェクトとか、イメージセンサーが故障したら自分で故障を知らせることができるようにするなど次世代のソリューションを作り上げていきたいですね。

坂野:やはり車載ビジネスに最初から携わっているので、当グループに収益で貢献できるようになるまではテクニカルな意味でリードしたいと思いますし、その中では環境問題を踏まえ、効率的で、自分で状況を判断して動き方を変えることができるようなスマートなアーキテクチャを業界に向けて提案し、当グループが業界をリードする形に持っていきたいと思います。
2021年4月8日に、警察庁が統計を取り始めてから53年目にして初めて全国の交通事故死者数ゼロの日があったのですが、そういう日が当たり前になるように、交通事故自体が珍しくなるようになるといいと思っています。それに貢献できるのが当グループのイメージセンサーであったら嬉しいなって思います。

西塚:当グループから出荷する車載用イメージセンサーは、本当に不良ゼロの品質になることをめざしたい。当グループの車載メンバーの力を結集したらできるんじゃないかと真剣に思っています。

下薗:まずは、車載用イメージセンサーで世界No.1となること。センシングについては、微細化による解像度向上により認識距離、視野角拡大による安全性向上。SPADと組み合わせたFusionにより環境ロバスト性を強化していきたいです。
そして何より、人を幸せにするイメージセンサーをつくると同時に、働く人が幸せになるような環境を作っていきたいと思っています。

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