使用方法

高出力レーザダイオードの特徴と冷却方法

高出力レーザダイオードは、光ディスク用やレーザビームプリンタ用の半導体レーザと比べて、特徴的な構造を持っています。それは、他の半導体レーザがほぼ数ミクロンの点光源とみなせる事に対して、数百ミクロンの幅の線状の部分からレーザ光が出ることです (図-1) 。

図-1

また、アレイレーザと呼ばれるものは、その線光源が数百ミクロンピッチで並んでいます (図-2) 。この線光源の長さを『発光線幅』と呼びます。

図-2

この構造により、活性層に水平と垂直な方向のNFP、FFPが違った形となっています (図-3) 。特に水平方向のNFPの形は、SLD330シリーズでは、強度の分布は残るものの台形の形状に近いものとなっています。

図-3 SLD334YTの特性例

SHPのパッケージには、φ9mmのV-PKG, TEクーラー (ペルチェ素子) 内蔵のYT-PKGがあり、アレイタイプでは、オープンヒートシンクタイプのS-PKGや、水冷タイプのS3やS4パッケージがあります (図-4) 。

図-4

以上のSHPのパッケージに合わせた冷却方法が必要なため、それを示していきます。

実装について

1. 熱放散について

高出力レーザダイオードには、チップ温度を定格範囲に保ち、寿命を保証するために適切な熱放散が必要です。レーザダイオードの光変換効率は30%程度で、直流電力の大部分は熱としてパッケージより放散されますので、レーザダイオードを放熱器なしで動作させることは絶対に避けてください。その際、パッケージとレーザダイオードが電気的に結線されているものがありますので、回路にも注意を払ってください。
ソニーの中高出力レーザダイオードは、現在、φ9mm Vパッケージと特殊角形XT、YTパッケージに組み込まれています。これらのパッケージは、チップのレーザ共振器領域からパッケージの外側までの近似的な熱抵抗として次のような値を持ちます。この値は、標準的なΔVF法によって測定しました。
Vパッケージ:42°C/W (レーザチップの熱抵抗を含む)
以下にSLD300シリーズ、Vパッケージのヒートシンクへの標準マウント方法を示します。熱接触を向上させるため、パッケージとヒートシンクの間にシリコングリース等の使用を推奨します。ただし、シリコングリースがガラス面に付着しないよう十分注意してください。

図-5

レーザチップで発生した大部分の熱は、パッケージの下面より放出されるので、ヒートシンクはパッケージの下面と良好な熱接触を取らなければなりません。
また、レーザダイオードの特性値は、ケース温度Tc (TEクーラー内蔵のものはサーミスタの読み温度、水冷パッケージは冷却水温度) で規定しています。
例えば、SLD323Vを光出力Po = 1Wで動作させると約2Wの熱を発生します。
また、この動作温度はTc =-10~+30°Cですので、これに見合う放熱器を取り付け、強制空冷、水冷、ペルチェ素子による冷却等を行ってください。

2. 外付TEクーラーを用いて放熱する方法

レーザダイオードを放熱する方法は種々ありますが、ここではペルチェ素子 (TEクーラー) を用いて放熱する方法について紹介します。
レーザダイオードを冷却するにあたって、まず考えなければならないのは動作温度です。レーザダイオードの動作温度はケース温度で規定されますので、これを何度に設定するかという事が重要になります。
ケース温度 (=Tc) とすると

Ta:外気温度 (°K)
PLD:レーザダイオード発熱量 (W)
PP:ペルチェ素子の消費電力 (W)

とします。まずペルチェ素子の吸熱量Qabは、
Qab = PLD+ x
(xは冷却側の外気からの吸熱量)
また、ペルチェ素子放熱側温度Tcoolは、
Tcool = Tc - (H × PLD)

H:冷却側のコンダクタンス

そしてペルチェ素子放熱側温度THOTは、次式となります。

ペルチェ素子の吸熱量Qabの式

S:ペルチェ素子の平均ゼーベック係数 (V/°K)
n:ペルチェ素子内の半導体素子数
Ip:ペルチェ素子に流れる電流 (A)
R:ペルチェ素子内部抵抗 (Ω)
K:ペルチェ素子熱貫流率 (W/°K)

従って、

ペルチェ素子放熱側温度Thotの式

最後にペルチェ素子放熱量QDは、
QD = Qab + PP (W)
上述の結果より、放熱器のコンダクタンスHは、

放熱器のコンダクタンスの式

※ただし、レーザダイオードと冷却ブロック、冷却ブロックとペルチェ素子の冷却側、ペルチェ素子の放熱側と放熱器の熱抵抗は無視しています。
例えばSLD323V駆動時で、上述の実装図で考えた場合、
(Iop =1.4A Vop = 2.1V Po = 1.0Wとします)
ケース温度 (Tc) = 15°C、Ta = 25°C
ペルチェ素子電流Ip = 2A、Vp = 3V、
nS = 0.023 (V/°K) 、K = 0.29 (W/°K) 、

放熱器の形状図

・ペルチェ素子の吸熱量

Qab = (Iop × Vop - Po) +x= 1.94 + x (W)
ここでxは、レーザダイオードとペルチェ素子冷却側の熱コンダクタンスを考慮した吸熱量で、例えばここでは
x = 1.06WとするとQab = 3 (W)

・ペルチェ素子の冷却側温度

Tcool = Tc - (Qab/H)
  = 15 - (0.5 × 3) ≒ 13.5°C = 286.5 (°K)
(ただし、Hはレーザダイオードとペルチェ素子冷却側の熱結合法により異なります。ここでは1/H =0.5 (°C/W) とします)

・ペルチェ素子の放熱側温度

ペルチェ素子の放熱側温度の式

ペルチェの素子の特性グラフ (図-6) よりVp (ペルチェ素子電圧) を求めるVp≒3 (V)
上述の結果より
QP= Qab + Ip × Vp = (3 + 2 × 3) = 9 (W)
従って、放熱器のコンダクタンスHは

放熱器のコンダクタンスHの式

となりますので、これよりも大きい値を持つ放熱器が必要となります。

図-6

3. TEクーラー内蔵型レーザダイオードの放熱方法

TEクーラー特性図の見方、放熱器の選び方

TEクーラー特性図の代表例を図-7に示します。また、XTパッケージの放熱の概略を図-8に示します。
横軸は、サーミスタ (レーザダイオードチップ) の温度Tthとケース温度Tcとの温度差ΔT (Tth<Tc) 、縦軸の左側は、吸熱量 (レーザダイオードの発熱量) Q、右側は、TEクーラーに発生する端子間電圧VTを表します。図の右上の温度がこの特性の測定条件になり、Tcが一定の場合とTthが一定の場合 (通常は推奨動作温度) とが仕様書に記載されています。
この図 (Tthが一定の場合) を使って、必要な放熱器の熱抵抗を求めます。

  1. まず、レーザダイオードの発熱量Qを調べます。
    レーザダイオードの動作電圧をVop、動作電流をIop、発光出力をPoとすると次式で表すことができます。
    Q (W) = Vop (V) × Iop (A) - Po (W)
    SLD304XTの場合、
    Q (W) = 2.1V × 1.4A- 0.9W = 2.0W
    となります。 (動作電圧、動作電流は標準値です。実力値についてはお問い合わせください)
  2. 次に、ΔTvsQ特性から、ケース温度Tcの最大許容値を求めます。
    1より、吸熱量Qが約2W (パッケージ内部の熱対流は無視) で、このQ= 2Wの直線とTEクーラーの最大定格電流であるIT= 2.5Aの特性曲線との交点から垂線を下ろすと、ΔTは、だいたい47°Cになります。 (*1)
    従って、Tcの最大許容値Tcmaxは、
    Tcmax (°C) = 47°C+ 15°C = 62°C
    となります。
    図-7図-8
  3. 次にケース全体の発熱量Qcを求めます。
    Qcは次式で与えられます。
    Qc (W) = VT (V) × IT (A) + Q (W)
    尚、VTはΔTvsV特性から読み取ります。 (*2)
    ITとΔTが決まると一意的に決まります。 (注:VTはTEクーラーに印加する電圧ではなく、端子間に発生する電圧であると考えます。つまり、TEクーラーの制御は電流で行い、十分な印加電圧を与えることが必要です)
    SLD304XTの場合、
    Qc (W) = 6.3V × 2.5A + 2.0W
    = 17.8W
    となります。
  4. そして、放熱器の必要最大熱抵抗値 (θh) を求めます。
    θhは次式で与えられます。
    θh (°C/W) = (Tcmax-Tamax) (°C) /Qc (W)
    ここでTamaxは、最高許容雰囲気温度です。
    Tamax = 45°Cとすると、SLD304XTの場合では、
    θh (°C/W) = (62°C-45°C) /17.8W
    = 0.96°C/W
    となり、これよりも小さい熱抵抗を持つ放熱器を選ぶ必要があります。
    放熱器は、その置き方や周囲温度環境で特性が変化しますので、基本設計に対して、十分余裕のあるものを選んでください。場所や大きさの制約があり、余裕のとれない場合は、強制冷却をしたり、Tamaxを低く設定するなどの方法で対応してください。
    また、TEクーラー特性図のΔTvsQ特性のうち、最大IT曲線の左下領域でないと温度制御ができませんので、右上領域になる恐れのある場合は、レーザの出力を下げて発熱量を減らすか、Tamaxを低く設定するなどの方法で対応してください。